「もう限界かもしれない。でも、休職なんて言い出したら評価が下がるんじゃないか」——退職面談を1000件以上担当してきた筆者のもとには、こうした相談がいまも絶えません。

厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は12.8%。労働者個人で見ても0.5%が休業を経験しています。しかし人事部の評価会議では、「数字に表れない"隠れ限界層"のほうがはるかに多い」というのが実感です。

この記事では、2026年5月時点の最新データと、筆者が上場企業の人事部で20年間見てきた現場のリアルを交えながら、「休職を言い出せない人」が陥りやすい構造と、人事側に伝わる正しい切り出し方を解説します。

「頑張る人」ほど休職を言い出せない3つの構造的理由

採用側の論理で言うと、休職をためらう人には共通したパターンがあります。退職面談で「もっと早く休めばよかった」と語る人たちの声を整理すると、以下の3つの構造が見えてきます。

①「評価が下がる」という思い込み

「休職=キャリアの傷」と考える方は非常に多いのですが、人事規程の実務から言えば、これは半分正しく半分間違いです。たしかに評価期間中の実績はゼロになりますが、復職後に成果を出せば評価はリセットされる企業がほとんどです。むしろ人事部の評価会議では、「無理をして成果も体調も崩した人」のほうが扱いに困るケースが多いのが実情です。

②「自分が抜けたら迷惑がかかる」という責任感

退職面談で本当に言われるのは、「チームに申し訳なくて言い出せなかった」という言葉です。しかし冷静に考えれば、1人が抜けて回らなくなる組織はそもそもマネジメントの問題。あなたが壊れてから急に抜けるほうが、チームへのダメージは何倍も大きくなります。

③「まだ大丈夫」の基準がズレている

レバレジーズ社が2025年に実施した調査では、メンタル不調による休職のきっかけとして「職場の人間関係(24.3%)」「ハラスメント関連(22.8%)」「業務量の多さ(22.5%)」が上位に並びました。注目すべきは、これらが突発的なショックではなく、じわじわ蓄積するストレスだという点です。「まだ動ける」と感じている段階で、すでに限界を超えている人が少なくありません。

休職を"我慢した人"に起きること——退職面談1000件のデータから

筆者が退職面談で確立した3つの問い——「直近3か月で最も嫌だった出来事は?」「同期にこの会社を薦めるか?」「5年前の自分なら今ここにいるか?」——を使って本音を引き出すと、限界まで我慢した人には共通の末路がありました。

末路①:休職せずに退職→転職先でも再発

同調査によれば、メンタル不調による休職後、20代の約7割が退職しています。さらに別の企業に転職した人でも約4割が再休職を経験。つまり「環境を変えれば治る」という期待は、構造的にはかなりリスクが高い選択です。休まずに辞めた場合、回復のプロセスを経ていないぶん再発率はさらに上がると、人事担当者の多くは感じています。

末路②:「円満退職」のつもりが「逃げた」と自分を責める

退職面談では、「休職制度を使わなかった理由」を聞くと、多くの人が「制度があることは知っていた。でも使う勇気がなかった」と答えます。そして転職後に、「あのとき休んでいれば辞めなくて済んだかもしれない」と後悔するパターンが繰り返されます。

末路③:長期化して復職の選択肢が消える

休職期間は「1年以上」が最多(34.7%)という調査結果があります。ただし20代に限ると「1〜3か月未満」が43.2%で最多。つまり早く休めば早く戻れるのです。我慢して限界を超えてから休むと、回復期間が長期化し、復職のハードルがどんどん上がっていきます。

人事に「伝わる」休職の切り出し方——3ステップ

では、実際に休職を切り出すとき、何をどう伝えればいいのか。人事部が「この人はちゃんと考えている」と感じる伝え方を3ステップで解説します。

ステップ1:まず医師の診断書を取る

口頭で「つらいです」と言うだけでは、上司も人事もどう対応すればいいかわかりません。心療内科や精神科を受診し、診断書をもらうことが最初の一歩です。診断書があれば、休職は「個人の弱さ」ではなく「医療上の必要性」として扱われます。2026年5月現在、初診でも当日に診断書を出してくれるクリニックは増えています。

ステップ2:上司ではなく「人事部」か「産業医」に先に相談する

直属の上司に言いづらい場合は、人事部門や産業医に直接連絡しても問題ありません。多くの企業では、本人の同意なく上司に情報が共有されることはない仕組みになっています。筆者の経験上、人事部に先に来てくれた方がスムーズに進むケースは多いです。メールでの相談でも構いません。

ステップ3:「いつまで」ではなく「まず休む」と伝える

「どのくらい休むんですか?」と聞かれても、正直に「わかりません」で大丈夫です。休職期間は医師の判断と就業規則で決まるものであり、本人が事前に宣言する必要はありません。人事部としても、「まず休んで、回復してから考えましょう」と言えるほうが対応しやすいのが本音です。

休職中に知っておくべきお金の話——傷病手当金の基本

休職をためらう理由として「お金が不安」という声もよく聞きます。ここでは最低限押さえておくべきポイントだけ整理します。

傷病手当金は、健康保険の被保険者が病気やケガで連続3日以上休んだ場合に、4日目から最長1年6か月間、標準報酬日額の3分の2が支給される制度です(2026年5月時点)。つまり月給30万円の方なら、おおよそ月20万円程度が支給されます。

申請は会社の人事・総務部門を通じて行うのが一般的ですが、本人が直接健康保険組合に問い合わせることもできます。朝6時に起きてヨガをしてから午前中に書類を整理する——筆者自身、独立後のクライアント企業でこの手続きを案内することも多いのですが、「こんな制度があるなんて知らなかった」と言われることが本当に多いです。

なお、退職後でも条件を満たせば傷病手当金の受給を継続できる場合があります。詳細は加入している健康保険組合の窓口に確認してください。

「休職は逃げ」ではなく「戦略的撤退」——人事が本当に思っていること

最後に、人事側の本音をお伝えします。採用責任者として1500名以上を面接してきた経験から言えば、面接で「過去に休職経験があります」と正直に話す候補者を、それだけで不合格にする企業は減っています。むしろ「自分の限界を認識し、適切に対処できた」というエピソードとして評価する面接官も増えました。

人事部が本当に困るのは、限界を超えているのに無理を続け、ある日突然「もう無理です、明日から来ません」と言われるケースです。引き継ぎもできず、チームは混乱し、本人も回復に時間がかかる。これが最悪のシナリオです。

休職制度は、会社が「使ってほしくない」と思って置いている制度ではありません。人事規程の中に休職条項がある以上、それは会社が「必要なときは使ってください」と公式に認めた仕組みです。制度を正しく使うことは、甘えでも逃げでもありません。

FAQ

休職したら昇進や昇格に影響しますか?

評価期間中の実績はゼロ扱いになる企業が多いですが、復職後の評価は通常どおり行われます。「休職した」という事実だけで昇進を永久に止める運用は、多くの上場企業では制度上認められていません。

休職を申し出るタイミングはいつがベストですか?

「まだ動けるうち」がベストです。完全に動けなくなってからでは、医療機関の予約や手続きすら難しくなります。「朝起きるのがつらい」「日曜の夜に眠れない」と感じた段階で、まず医師に相談することをお勧めします。

上司に直接言えない場合はどうすればいいですか?

人事部門・産業医・社内相談窓口に直接連絡しても問題ありません。メールでの相談も受け付けている企業がほとんどです。「上司に言えないこと自体が、すでにSOSのサイン」と考えてください。

休職中の過ごし方で気をつけることはありますか?

最初の1〜2週間はとにかく休むこと。「何かしなければ」という焦りが回復を遅らせます。その後は主治医と相談しながら、生活リズムを整えることが復職への近道です。SNSで仕事の話題を追うのは避けたほうが無難です。

参考文献