退職面談で「もっと早く確認しておけばよかった」と語る人は、実は少なくない。私が人事部で20年間、1000件以上の退職面談を担当してきた中で、転職入社した社員が辞めていくとき、後悔の内容には驚くほど共通したパターンがあった。
識学の調査によると、転職経験者の59.7%が転職後に「後悔・失敗した」と感じている。さらにGradsGuideの調査では、転職者の7割以上が入社後にマイナスギャップを実感しているという。
この数字を見て「転職は危険だ」と思うのは早計だ。退職面談で本当に言われるのは、「転職したこと自体」への後悔ではなく、「入社前にもっと聞いておけばよかった」という情報収集の後悔なのだ。
退職面談1000件で見えた「3つの聞き漏らし」
転職入社後1年以内に退職面談に来る人が確認し忘れていた質問は、大きく3つに集約される。
質問1:「この部署の直近1年の離職率は何%ですか?」
会社全体の離職率は求人票や企業HPに載っていることが多い。しかし、採用側の論理で言うと、全社平均と配属先の離職率は全く別物だ。
退職面談で「入社してみたら、同じ部署から半年で3人辞めていた」と語る人は珍しくない。全社離職率が5%でも、特定部署だけ30%ということは上場企業でも起きる。
面接の逆質問で部署単位の離職率を聞くと、採用担当が正直に答えるケースは多い。なぜなら、人事部はこの質問をする候補者を「リスク感度が高い人材」と評価する傾向があるからだ。聞くこと自体がマイナス評価になることは、私の経験上ほとんどない。
質問2:「入社後3ヶ月の具体的な業務内容と評価基準は?」
「即戦力として期待しています」は採用時の常套句だが、退職面談で多い不満は「何をもって評価されるのかが入社後もわからなかった」というものだ。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、転職入職者が前職を辞めた理由として「給料等収入が少なかった」「労働条件が悪かった」が上位に入る。しかし退職面談の本音を掘ると、給料への不満の根底には「貢献しているのに正当に評価されていない」という感覚がある。
人事部の評価会議では、入社3ヶ月時点の「立ち上がり速度」が最初の評価指標になる。だが、この基準は入社前に伝えられることが少ない。オファー面談の段階で「最初の3ヶ月で期待する具体的な成果物は何ですか」と聞ける人は、入社後のギャップが圧倒的に小さい。
質問3:「前任者はなぜこのポジションを離れたのですか?」
これは最も聞きにくく、最も重要な質問だ。退職面談で「自分の前任も半年で辞めていたと後から知った」という話は何度も聞いた。
前任者が昇進して空いたポジションなのか、退職して空いたポジションなのかで、そのポジションの意味は根本的に変わる。昇進なら成長機会がある証拠だし、退職なら構造的な問題が潜んでいる可能性がある。
私が1500名以上を面接してきた経験から言えば、この質問に対して曖昧な回答しか返ってこない場合、そのポジションには何らかの課題がある確率が高い。採用側が答えにくい質問こそ、入社前に確認する価値がある。
なぜ「聞くべきこと」を聞けないのか
退職面談で後悔を語る人に「なぜ入社前に確認しなかったのですか」と聞くと、返ってくる答えは3つに絞られる。
- 「内定を取り消されるのが怖かった」:実際には、逆質問で内定が取り消されることはまずない。企業側も採用コストをかけているため、質問一つで白紙にすることは経済合理性がない。
- 「聞いていいと思わなかった」:面接を「試験」と捉えている人に多い。面接は双方の適合を確認する場であり、一方的な審査ではない。
- 「早く転職先を決めたかった」:これが最も根深い。朝6時に目が覚めて、通勤前にスマホで求人を眺める日々が続くと、内定が出た瞬間に冷静な判断ができなくなる。
共通しているのは、転職活動を「選ばれる側」としてしか捉えていない点だ。採用側の論理で言うと、入社前に厳しい質問をしてくる候補者のほうが、入社後に定着する確率が高いというデータを社内で持っている企業は多い。
「オファー面談」を最大限に活かす方法
内定後のオファー面談は、実は最も自由に質問できるタイミングだ。選考は終わっており、企業側も入社してほしいと思っている段階だからこそ、率直な対話ができる。
私がHRコンサルとしてクライアント企業にアドバイスしているのは、オファー面談で以下を開示すべきだということだ。
- 配属先の組織図と直属上司のマネジメントスタイル
- 入社後90日間の具体的な期待値
- 過去1年間で同ポジションから離脱した人数
逆に言えば、候補者側もこの3点をオファー面談で確認すれば、入社後のミスマッチは大幅に減る。横浜港を散歩しながら考え事をしていると、結局キャリアの問題は「情報の非対称性」に帰着すると感じることが多い。聞くべきことを聞く勇気が、転職の成否を分ける。
まとめ:後悔は「聞かなかった自分」への後悔
退職面談1000件の経験から断言できるのは、転職後の後悔の大半は「転職したこと」ではなく「確認しなかったこと」への後悔だということだ。部署の離職率、入社後の評価基準、前任者の離脱理由。この3つを入社前に確認するだけで、ミスマッチのリスクは格段に下がる。
転職は人生の大きな決断だ。だからこそ、選ばれる側に徹するのではなく、自分も企業を選んでいるという対等な視点を忘れないでほしい。
よくある質問(FAQ)
Q1. 面接の逆質問で離職率を聞いたら印象が悪くなりませんか?
A. 私の採用責任者としての経験では、離職率を聞く候補者をマイナス評価したことはありません。むしろ「入社後の定着を真剣に考えている」と好意的に受け取る採用担当が多いです。聞き方としては「配属予定の部署の直近1年の人員変動を教えていただけますか」と柔らかく表現するとスムーズです。
Q2. オファー面談と最終面接は何が違うのですか?
A. 最終面接はまだ選考の一部ですが、オファー面談は内定後の条件すり合わせの場です。年収・勤務条件の交渉はもちろん、配属先の詳細や評価基準など、選考中には聞きにくかったことを率直に確認できるタイミングです。企業によっては実施しないケースもあるため、内定通知を受けた際に「条件面談の機会をいただけますか」と自分から申し出ることをおすすめします。
Q3. 前任者の退職理由を聞いて正直に答えてもらえるものですか?
A. 直接的に「前任者はなぜ辞めたのですか」と聞くと回答を濁されることがあります。「このポジションが今回募集に至った背景を教えてください」という聞き方のほうが、企業側も答えやすいです。事業拡大による増員なのか、欠員補充なのかだけでも、ポジションの性質は大きく変わります。
Q4. 転職エージェント経由の場合、これらの質問はエージェントに聞けばいいですか?
A. エージェントは企業との関係維持を優先する立場にあるため、ネガティブな情報を積極的には共有しません。部署の離職率や前任者の状況は、最終的には自分で企業に直接確認すべきです。エージェントには「オファー面談を設定してほしい」と依頼し、その場で自分の口から質問するのが最も確実です。
参考文献
- 識学「転職についての意識調査」(2022年)転職経験者の59.7%が転職後に後悔・失敗したと回答
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」転職入職者の離職理由別データ
- GradsGuide「転職後のギャップに関する調査」(2024年)転職者の7割以上が転職後にマイナスギャップを実感

